キューバの社会主義が生んだ”屋台でキャリアアップをした元プログラマー”のお話

*2020年1月、コロナ前のお話です。

海に囲まれた熱帯の島、キューバ。

カリブ海沿いの蒸し暑い潮風の吹くプラヤ・ラーガ。

映画のようなクラシックカーが本当に当たり前に走る道路と、底抜けに陽気な人たちにちょくちょく足が止まる。

インターネットもろくにないこの国の情報はいまだに謎に包まれていることも多く

友達のチリ人やメキシコ人ですら”キューバは謎に包まれすぎていて、同じ中南米でも不思議で仕方がない”と言っているほど。

そんな中で、キューバの社会主義や、その中でどうやってみんながビジネスを行なっているのかをとても詳細に教えてくれた人がいました。

彼は海沿いの田舎のカクテル屋台で働くバーテンダー。元プログラマー。

インターネットがほぼないこの国では”屋台で外国人相手にカクテル売ってる方がITの10倍稼げる”から、後ろ髪引かれつつも転職したとのこと。

大都市ハバナの観光地やホステルですらろくに英語が通じないこの国の、海しかない片田舎。

そんな中で会った、英語がとても流暢な屋台のバーテンダー。
のんびり一杯しよう。英語なんて通じないだろうと思って、手で本を開く動作を見せながら”Menu?”とだけ聞いたら

“ごめんなさい、新しいお店なのでまだメニューはないのですが、全部$2で、一通り作れます。何がよろしいですか?”

と、屋台から信じられないくらい流暢な英語が。

ちょっとびっくりしつつも、なにがオススメですか?と聞くと流暢な英語でオススメのカクテルとなにが入っているかを説明してくれたので

こんなに英語が流暢なキューバ人は初めて見ましたよ。びっくりしました。と言うと

”そう言ってもらえて嬉しいです。いつも観光客に驚かれて、みんな安心したかのようにたくさん話しかけてくれるんです。観光スポットの質問があれば今がチャンスですよ”と言いながらニコッとする。

じゃあ、キューバの社会主義がどうなってて、医者と農家がおんなじお給料って聞いたんですけど本当ですか?
ってか、それでも医者を目指す人って何を考えてあえて頑張るんですか?
…と観光情報よりも今まで聞きたくてしょうがなかった疑問を投げかけると

”え、いきなりその質問ですか!?それは長話になるので、10分ほど待ってください。と少し驚かれる。

15分ほどすると、ビールを片手に戻って来た。オーダーが来たら席を外すけど、まぁ話しましょう。と。

キューバの社会主義はほんと。もちろん職業によって配当金の違いはあるけれど、だいたいは30ドルから50ドル相当の現地通貨が配られる。

日常生活に必要なものは配当だったりそうでなかったり。光熱費や学費、医療費はすべて無料。
社会主義は悪く見られがちだけれど、国民は医学部すら無料なので、賢い人は今後のチャンスや投資の必要性の無さも加担して好きな勉強をする。

政府は現金そのものを”無くていいもの”として極力扱いたみたい。とのこと。

ちなみに彼も4年間のコンピューターサイエンスの学士はすべて無料で、生活費も給付の奨学金だったから別に不自由はなかったらしい。

”いろんな国から社会主義は破綻してるだのキューバは崩壊しているだの言われるけど、そんなに悪い国じゃないと思うよ。

特にお母さんが癌になって入院したときは、入院の際の往復のハバナ(所要2時間半)までの交通費以外は全部国の負担で、あとは何も負担がなかったからお母さんの体調以外の心配はほぼ何も無かった。

当時大学生だった僕がハバナに住んでたのが不幸中の幸いだったかな。心配しすぎて倒れそうだったけど。”と、少し複雑な顔をした。

ちなみにお母さんはばっちり回復したので、”キューバの医療水準が高い低いの議論は、お母さんを治してくれたから誰がなんと言おうと僕は評価する”らしい。

とはいえ、やっぱり人間として現金の魅力には勝てない場面がすごく多いから、現金を稼ぐふたつの方法があるらしい。

1つは外国人相手に仕事をして、外貨を稼ぐこと。

観光業や兌換通貨の手に入る職業は、収入の50%を納税することを条件に現金収入を得ることが許されるらしい。

そのため、医者よりもタクシードライバーが稼げるのは本当。

プログラミングを専攻した彼も、プログラマー時代のお給料は月40ドル程度だったらしい。

現金とキャリアの両立を目指して外国人相手の飲食店のコンサルタントに転職して外貨のコミッションを目指したものの、
自分で外貨を稼いだほうが早いと判断して、現金収入を得るために外国人相手にカクテルを売るのが一番いいと判断したのが1年半前。

ちなみに稼ぎは納税後で月500ドルなので、10倍以上らしい。彼曰く”受け入れがたい大幅キャリアアップ”だと。

”そもそも、インターネットもコンピューターもまともにないキューバでプログラミングは仕事にならないんですよ。

国内で環境がすごく整っている会社でもインターネットの配当が1日合計2~3時間。
スクラッチカードが2、3枚渡されて、コインで削ってパスワードを手入力するんです。

あとはオフラインでコードを書いて、インターネットが使える瞬間にまとめてアップロードするもんだから、回線がパンクして、また明日。

外国のお客さんからオンラインで稼ぐ!どころか国内需要すら供給できない状態でね。仕事にならないんで。”と苦笑い。

なんかせっかくの人材を無駄にするシステムだね。と言うと

”えぇ、キューバへようこそ”とにっこり。

そのうち医者もプログラマーもエンジニアもみんなタクシー運転したりカクテル売り出す気がするのだけれど。と聞くと

”それは的確だけれども、国の存続に外貨が直結してる中で観光客に嫌われるのもこれまた死活問題だから、教育水準の高い人が外国人のニーズをちゃんと勉強して観光業がどんどん発展している今の現状も国としては結果オーライなのも事実なんです。”

”僕の大学のクラスメイトは85%海外に就職しちゃったけど、
地元愛がすごく強いキューバ人にとって観光業になればキューバを出ずに済む!っていう希望の光が優秀な人の国外流出を防いでるのも事実で、実際に人材流出しているかというとそんなことはない。

そもそもこのキューバのシステム自体が優秀な人を海外に流出させてしまうか、優秀な人を観光業として呼び戻すかどっちかにしか働いていない気がする。”とのこと。

ちなみにチップや手数料は誰も申告しないため、観光客のあれしたいこれしたいを叶えて申告しない現金収入を狙うのがとても一般的。

宿の”家庭料理”サービスや送り迎え、洗濯サービスがこれにあたるらしく、そこで現金を得る方法を必死で考えられる頭の回るやつが効率よく稼ぐので、結果学歴(厳密には知力)と観光業での成功は切っても切り離せないらしい。

それでも、観光業でもなんでもない農家や店員さんがスマホをもっていたり、綺麗なパーティードレスを持っているのをよく見るけど、そのお金はどこから来るの?と聞くと

”良い質問だね。抜け道は…もちろんあるよ。”とのこと。

キューバでは全員がブラックマーケット(闇市場)を個人で持っていて、そこで政府が監視していない現金収入をみんなこっそり得ているらしい。

闇市場の売り物はさまざま。

一番簡単なのは流通が潤沢な時期を狙って日用品を買い占めて、不安定すぎる物流でしょっちゅう枯渇するペットボトルの水や石鹸、洋服などを枯渇のタイミングを狙って数倍に引き上げて友人経由や路上で売る方法。

次にメジャーなのが、自分の職業や特技を活かして個人取引で技術や知識を売る方法。

医者は病院の時間外に健康相談に乗って現金収入を得るし、
IT関連の人は近所の人や友達のスマホやパソコンの設定やVPNの設置などで現金収入を得るし、
エンジニアは修理屋に持っていけば何週間とかかる人の持ち物を数時間で直すことで現金を得る、と。

結局勉強しておいた知識で裏で稼げることが社会主義での勉強のモチベーションになるし、
結局そっちの収入の方が多いのでそもそも本業目的で勉強していない人もいるとか。

それらができない人の中でメジャーなのが、”ロマンスを売る”こと。

地元の知人同士でも一晩何ドルという会話は飛び交うし、欧米の観光客のおじさんやおばさん、観光業で潤ったキューバ人相手に恋人ビジネスでものやお金をおねだりするのは”普通”なことらしい。

知人友人でお金がそんなに飛び交うんだ。じゃあ友達もお客さんみたいなもの?と聞くと

”全部じゃないけれど、個人的に答えはYes。それでも人として値踏まれてる訳じゃないから、普通に友達だけどね”と、何食わぬ顔で答える。

それってもう社会主義というか、だいぶ資本主義だよね?

”半分Yes。
ただ、この社会主義のおかげで本来貧困で死ぬレベルの人たちが死なないくらいはちゃんと末端までケアが行き届いているからおおごとにならずに済んでるのも事実で、
完全に資本主義じゃないと思うよ。少なくとも今は。

そうしないと欲しいものが買えないってレベルから、そうしないと生きていけないになった時に凶悪犯罪が起きるんだと思うけど、
この国犯罪はめったに起きないし、なんだかんだそう言う意味ではうまく機能していると思うよ。

大賛成ではないけどね。当のキューバ人はそんなに悪くないって思ってるんじゃないかな。”

ちなみに彼は今のキューバのままだったら”断固海外に出る気はない”と断言していた。

多くの友達は海外に出ていってしまった。うらやましいし、ついつい比べて俺は一体何をしてるんだろう。って落ち込むこともあるらしい。

それでも結局家族と地元から離れずにのんびり生きていけるこの生活に引き換えるほどではないと言う結論に毎回落ち着くので、挑戦する気もあまり起きないらしい。

”カクテル売りがキャリアアップなんてキューバだけだろうね。いまは実家も改装してホステルにしちゃったから、もう観光業の人だよね。

ただプログラミングを勉強したことは良かったと思うし、たまにもったいないなって思うけど、もう3年近く離れちゃったからまた勉強し直さなきゃもうついていけないと思う。

たまに忘れないようにで趣味でアプリとかは作るけど、ほら、ネットないから細かいテストとかリリースもきないの。オンラインで外貨稼いでもキューバに送金できないしね。

まぁ、また勉強したくなったら学校タダだから。問題だらけの国だけど、問題なく生きてるよ。”

“問題が多すぎるんだよね。この国。そうすると、じゃあ飲んで踊るか。って結論になるのね。
論理じゃどうにもできないから、論理で解決しないの。これがキューバのロジック。キューバへようこそ。”と、誇らしくで笑う。

ピニャコラーダ、すっごく美味しかったです。多分今まで飲んだ中でも一番だと思います。というと

”作り方、教えようか?”と言い、レシピを教えてくれました。

レシピまで教えてくれるの?と聞くと

”もちろん。外国人料金は、チップ以上に盛ってますのでご遠慮なく。”とからかわれる。

謎に包まれた国。謎は謎のままとりあえず飲んで踊ってればOKのロジックなら、この国はまだまだしばらく不思議なままなのかもしれない。

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